詠唱
昇が描いた方円によって取り込まれる。白い輝きから赤い光へと変じたそれは昇の『刻印』に吸い込まれた。
「虫けらどもが……精々足掻いて見せるが良い!」
塔也の背後にある炎上しかけの校舎は、なおも肥大する闇によって全く見えない。校舎から発せられる黒煙だけが塔のように突き上げている。
「……兄さん」
不安そうに昇を見つめる瑞樹に、彼は力強く頷き返す。
瑞樹は顔を伏せ、
「……いきます」
意を決するように面を上げ、九字を組み始める。
「我がもとに来たれ太陽の使者よ。不死の炎、永劫なる力をその翼に宿し、虚ろなる闇を切り払えっ!」
印と詠唱によって力を増した朱雀は、まとう炎に一層勢いを増す。
刀印を昇に向けると、低空を滑りながら赤き鳥が飛ぶ。大気さえ煉獄の如く灼熱させながら飛来する朱雀を、昇は一際闇夜にくっきりと浮かんだ『刻印』をかざし、その掌に力の全てを封じた。
生暖かい風に、栗毛色の髪が揺れた。
純白のローブをなびかせ、
「……」
すまなさそうに青い瞳を痛みに染めている。
彼女がいなければ、昇も、字久も、瑞樹も、司影も。
塔也との戦いに、巻き込まれることはなかったのかもしれない。
そう思うと……
「先輩……そんな顔しないで下さいよ」