選択
幽鬼のごとく塔也に歩み寄り始めた。
「にいさ……」
瑞樹が昇を止めようとしたが、字久に肩をつかまれる。
振り返る瑞樹が見たのは、字久の険しい顔。
「彼が、選ぶ道です。我々に、口を挟む権利はありません」
ゆっくりと首を横に振る。
司影も玲於奈を見やるが、彼女は無言で昇を見つめるだけ。
ザッ、ザッ、ザッ。
無機的な足音だけが静寂に響いていく。
それを見届けるのは彼の友人と三日月。
塔也が静かに嗤う。
「くくくっ、見ろ、これが人だ。絆? 皆自分が一番可愛いのだ。偽善という虚飾の何と剥がれ易き事よ。三日月のように欠けた者同士の寄り合いなど、所詮満月の如き完全なる私には敵わんのだ!」
昇に向けて両手を広げる。
「お前は、知者の選択をした。さあ、この呪いをその『刻印』で」
唐突に、塔也の言葉が切れる。
昇の『右手』が拳を握り、顔面を殴りつけたのだ。
『右手』で殴られた顔を覆い、憤然と昇を見上げる塔也。
「知者の選択? それが賢いって事なら、俺は喜んで馬鹿になってやるさ」