思い出
「……随分、昔の夢を見たもんだ」
そう言って、草原の上で瞼を開いた。
『魔封じの刻印』の反作用か、全身の節々はまだ痛い。『刻印』のある左腕は特にひどく、骨に無数のヒビが入り、現在は三角巾でつっている状態だ。
三日前、塔也との激闘を終え、そのまま即入院の憂えき眼に昇はあった。『校舎復旧のために一週間休校になったっつうのに、冗談じゃねえ!』という執念からか、あるいは瑞樹に治療をしてもらったおかげだろうか、たった三日という驚異的な速度で退院出来たのだ。
空に、三角巾と手袋を外した左手をどうにかかざし、月光に照らす。
『刻印』は、塔也が力を失った現在でも象られたまま。塔也の現実への拒否が根深くその地に残っていたことから、字久は『怨念』のような形で『刻印』が残ってしまったのでは、と説明していた。
『魔封じの刻印』が邪魔だと言えば、正直邪魔だが、これはこれで悪くない。この力のおかげで、皆に出来ない事が。
自分だけに出来ることが、あったのだから。
「……でも、それもこれもあの人に会ったおかげだな」
かつて名も知らぬ『あの人』と会った運命の場所。
端山昇が、自らの存在を貶める事無く育った、絶対的な要因。
その場所に腰を落ち着け、心地よい風に身をまかせていた。
昇が退院すると聞くと、『宴会やろう宴会!』と持ちかけた者が約一名いた。その案に周りが賛同し、断りきれなかった昇は、今、この場所で彼女等を待っている。
草がそよぐ中、遠くから数人の声が聞こえてきた。