三日月の絆
一つは、男の口調で、女の声音。
一つは、あまりにも毒々しい言葉使い。
一つは、場に似つかわしくない、軽薄かつ口数がやたら多い男。
もう一つあるのだろうが、彼女は小さな声で喋っているのだろうか。その声は聞こえてこない。
手袋をし、腰を浮かしかけた所で一つの影を昇は捉えた。
錫杖に、編み笠。白い手袋と首にかけている数珠。足には足袋と草履という時代錯誤なもの。
忘れようにも、忘れられない。
昇の推測を肯定するかのように、シャン、と錫杖が鳴った。
「久しいな、小僧」
「……どうして」
体を起こし、呆然と問う昇には答えず、
「成程。あれがお前の仲間、という訳か」
編み笠を指で少しだけ上げる。低い声で呟き、わいわいと迫ってくる皆を見て鷹揚に頷く。どこかその仕草は、喜んでいるようにも見える。
「良き仲間に、恵まれたようだな」
「……はい」
月光をまとった彼を見上げながら、それだけは、即答出来た。
自分には、過ぎた友人だ。
錫杖が夜にシャン、と音をたてる。
「さて。私には為すべき事がこの先の地にある。今回、ここに寄ったのはそのついでだ」
「……そうですか」
少し残念そうな声が出てしまった。
それでも、もう、あの日のように彼を止めたりはしない。
彼には彼の。
自分には、自分の待ち人が。
この三日月の輝きの下で、待っているだろうから。
「小僧」
すぐに行くのかと思っていたが、まだ質問が残っていたようだ。
彼はこちらを向き、編み笠の下から問いを発した。
「今、お前は、不完全である自分をどう思っている?」
「小さな不満はたくさんありますけど、概ね好きですよ」
照れも何もなく、本心をありのままに語った。
「俺は、不完全な俺だったから、貴方に会えた。自分を見つめ直せたから、皆と巡り合えた。そう思います」
月光が注がれる彼を見上げる。
編み笠の下から見えた色の違う眼は、この上なく優しそうだった。
「お前は、私が期待していた以上の人間に成長したようだな」
その言葉には、昇も流石に恥ずかしかったのだろう。顔を赤くして俯く。
「昇。お前を支えてくれる仲間を大事にな」
そう言うと、彼は踵を返して夜の向こうに歩み去っていく。
しばらく昇がそれを黙って見つめていると、四つの声がはっきりと聞こえてきた。
「ちぇ、うるせえ奴等が来ちまったか」
しょうがない、と言いつつもその顔には笑みがこぼれている。
「おぉぉぉおい! こっちだこっちぃ!」
欠けた月の輝きの下で、昇は手を振り、皆を呼び寄せた。